『人は言葉を読むように外見を読むことができる。しかも、あらゆる外見のなかで、おそらく顔の表情は、もっとも長い文章の一つに数えられるものである。』（John Peter Berger）
顔というのは一つの楕円状のなかに、二つの眼とふたつの睫毛、一つの鼻と一つの口、そして二つの耳という、きわめて単純な構造で成り立っている。けれども、その単純な組み合わせが、世界の何億の顔たちの相違性を形づくっているから不思議である。
私の絵画の顔たちは、ヨーロッパ・アジア・アフリカ・南北アメリカなど、世界中のさまざまに異なる人間たちの顔であり、人種的偏見を超えた無名の人々の顔である。
しかも、私の描く顔とは、『たえず意味性を誘発しながらも、それ自体には意味がない』（Roland Barthes）顔である。別の云いかたをすれば、それらはさまざまな「顔の風景」である。そして「風景としての顔」を表現するために、私は顔を横にして描いている。
たぶん、私にとって芸術とは、「日常世界の事物を新たな眼で見る」ということの模索であり、そこから「見ることの創造性」を試みることである。
Viktor Schklowskijは記している。『事物を改めて意識するために、・・・・芸術と名づけられるものが存在するのだ。知ることとしてではなく、見ることとして、事物に感覚を与えることが芸術の目的である。そして、日常的に見慣れた事物を奇異なものとして表現する〈非日常化〉の方法が芸術の方法である・・・』