「行旅死亡人」とは、氏名・本籍地・住所などがわからず、引き取る人がいないご遺体です。発見された場所を管轄する地方自治体が火葬し、国が「官報」に掲載します。

もう40年以上も前になりますが、私は撮るモノがなくなりシャッターが切れない状態でした。そんな時、友人に「官報」に「行旅死亡人」という記事があることを教えられました。そこには、数多くの身元不明者が報じられていて、衝撃をうけました。
そこで、「官報」を片手に日常をとり戻した現場を訪れ、撮影してまわりました。

やがて私の興味は、写真の可能性やメディアとしての特質を明らかにすることに移り、見ることと撮ること、記録と表現のしくみをはっきりさせることに夢中になりました。社会の出来事への関心は持ち続けてきましたが、具体的なテーマにとり組むことはありませんでした。前回の『行旅死亡人の場所』で再びとり組んでみて、撮り続けようと思いました。